TimePieceLovers -暮らしを豊かにする腕時計のススメ-

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【時計解説】ムーブメントは自社ムーブメントが正義なのか

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 皆さん、こんにちは。

 TPL管理人のエイチです。

 

 昨日に引き続き、超初心者向けの時計解説をしていきたいと思います。まずは前回の記事もご覧いただければと思います。

 

timepiecelovers.hatenablog.com

 

 

 今日は、『ムーブメント』について絞ってお話ししようと思います。前回は、ムーブメントには、クオーツ・機械式・スプリングドライブの3つの種類があると言うことをお話ししましたね。

 ムーブメントを考えるには、この3つの種類以外にもよく槍玉に上がる話題があります。それは、そのムーブメントが『自社ムーブメント』であるかどうかです。

 今回の記事では、その問題について管理人エイチなりの見解を述べてみたいと思います。

 

1.ムーブメントについて

 まず、自社ムーブメントというものについて、もう少し詳しく説明すると、自社ムーブメントとは、最終的な時計を販売するメーカーによって、開発から製造まで一貫して行われているムーブメントのことを言います。

 「時計メーカーなんだから、そりゃそうだろ」と思う方もいるかもしれませんが、実はそうではないのです。つまり、自社で作っていないムーブメントを搭載して販売されている時計もあると言うことです。

 そう言ったメーカーでは、ムーブメントの製造を専門に手がけるメーカーなどから、ムーブメントもしくはパーツを購入し、それを自社で仕上げた上で販売していることになります。

 

2.マニュファクチュール

 こうしたメーカーに対して、上述した自社ムーブメントを持つメーカー、つまり自社で時計を作る全ての工程を担っているメーカーはマニュファクチュールと呼ばれています。

 

 では、現在の時計ブランドでは、マニュファクチュールとそうではないブランドはどちらが多いでしょうか?

 そりゃ、マニュファクチュールでしょ。と思う方も多いかもしれませんが、実はそうではありません。

 

 意外にも完全マニュファクチュールというブランドは多くありません。日本のセイコーなどは世界に誇るマニュファクチュールですね。

 と、この辺も語り始めると複雑で難しくなっていくので、このぐらいにしたいと思います。詳しく知りたい人は、“時計 マニュファクチュール”などで検索すれば詳しい解説がたくさん出てくると思うので、見てみてください。

 

 この記事では、『時計は必ずしも全て自社で作っているわけではない。』ということをまず覚えましょう。高度な製造技術が求められる時計作りでは、全てを自社でまかなうことは容易では無いのです。

 

3.時計業界の大きな変化

 そして、もう少し踏み込むと、殆どの時計メーカーはムーブメントを自社で作っていないと言うことは、その殆どのメーカーにムーブメントを提供する会社が当然いるわけです。

 そうしたムーブメント製造に特化した代表的なメーカーとしては、ETA社やセリタ社などがあります。また、先ほど紹介したマニュファクチュールのメーカーが、他社にムーブメントを提供するという場合もあります。

 こうしたメーカーはムーブメント製造に対して高い技術を持っているので、高品質なムーブメントを低コストで生産することができ、多くのメーカーから愛用されていたのです。

 

 しかし、この状況にも大きな変化が訪れます。

 スイスを中心とした高級時計業界は、安価なクオーツ時計の浸透や人々のライフスタイルの変化によって、大きく売り上げを落としてしまう時期がありました。そうした状況下において、スイスの時計産業を存続していくために、いくつかのメーカーが連合体となり、共同のビジョンを持って経営を進めることで、生き残っていこうとする動きが加速します。

 その結果時計メーカーは、リシュモン・LVMH・スウォッチ・その他独立メーカーといった形で、いくつかの大きなグループに分かれることになります。

 そのグループには、先に挙げたムーブメントメーカーも含まれており、同じグループ内でムーブメントを供給することによって、効率的な経営を目指すこととなりました。

 

4.ムーブメント供給停止問題

 そして、この後更にムーブメントをめぐる状況に大きな変化が訪れます。

 このグループが編成された以後も、社外のムーブメントを必要とするメーカーには、これまで通りムーブメントの供給がされていましたが、ある時、最大のムーブメント供給メーカーであるETA社が今後同グループでないメーカーにはムーブメントを供給しない!と言いだしたのです。(色々あってまだ供給は停止されていないようです。この辺の詳細も是非調べてみてください。)

 

 分かりにくいかもしれませんが、この現象をあえて音楽業界に例えてみると、

  有名な作詞作曲家である秋元康さんが、ある時期を境にAKBグループ以外には楽曲を提供しないと言い出した。※本当は作詞家ですが、分かりやすくするため作詞作曲家とします。

 みたいな感じです。それまで秋元さんの楽曲を頼りにしている歌手がいたとしたら、大変な事態ですよね。

 

 その結果どうなったかと言うと、他社からムーブメントを供給されない可能性が出てきた多くのメーカーが、そのリスクに対応するために自社でムーブメントを開発しようとします。

 こうして、これまでマニュファクチュールでなかったメーカーがマニュアルファクチュールとなっていくということが起こりました。

 

5.自社ムーブメントは正義なのか

 で!ここからが本題です。

 時計の購入を検討していて、ムーブメントを調べている際に必ずと言っていいほどぶつかる壁が、『自社ムーブメントの方が優れてると思い込んでしまう』という問題です。

 

 上で説明した通り、歴史的な背景も踏まえて各社が自社ムーブメントの開発に取り組んで行ったことから、自社ムーブメント信仰は加速したようにも思えます。

 私も当初はそうでした。なぜそうかと言われると説明は難しいのですが、また音楽業界で例えてみると

 

 “大好きな歌手がいて、作詞作曲も手掛けるシンガーソングライターだと思っていたのに、実は楽曲提供を受けていた時のちょっとがっかりした感じ”

 

 と言うような感じでしょうか。なんとなく、全部がその人によって生み出されていて欲しい感覚はありますよね。

 時計にもこのような感情を抱いていました。だから最初は意地でも自社ムーブメントの時計を買うぞと思っていたことを思い出します。

 

 でも、いくつかの時計を購入してみて、必ずしも自社ムーブメントが優れているというわけではないと思っています。

 

 その理由も、また音楽業界で例えてみましょう。

  秋元康さんが作詞作曲した楽曲

  ・秋元さんから楽曲提供が受けれないため、急遽自分で作った楽曲

 極端な例ですが、どちらの楽曲のクオリティが信用できますか?

 そのアーティストによると言われてしまえば、元も子もないないですが、一般論としては前者の方が信用できますよね。だって何年もその道で活躍してきたプロですから。

  こう考えると、付け焼き刃で開発されたような自社ムーブメントよりも、その道のプロが作ったムーブメントの方が良いということも理解できます。

 

 また、自社ムーブメントが搭載される時計の特徴として、相対的に金額が高くなる。ということが挙げられます。

 ムーブメントの開発はそう簡単ではないことですので、数年にわたる研究開発費、新たな製造工場の建設、ムーブメント製造スタッフの確保など、さまざまなコストが掛かるため、結果的に腕時計として販売された時の値段は上がってしまいます。

  

 そのコストの上昇以上に自社ムーブメントであることに魅力があるかということも考えなくてはいけませんね。

 

6.まとめ

 以上、時計業界と音楽業界の話が行ったり来たりして分かりづらかったかもしれませんが、自社ムーブメントに対する私なりの見解を述べてみました。

 この記事で言いたいことをまとめると、

 “自社ムーブメントだからと言って盲目的に信頼するのは危険”ということです。

 

 つまり、絶対的に〜〜だからいいと言い切れるものはないということです。自社ムーブメントでも素晴らしいものはありますし、専業メーカーが作る素晴らしいムーブメントもあります。

 最後の最後まで音楽の例えに固執しますが、ムーブメントの立ち位置を音楽に置き換えると、

 マニュファクチュール(自社ムーブメント)

     =宇多田ヒカル(自分で楽曲を作って歌う)

 社外ムーブメントを調達

 =嵐(楽曲提供を受けて、それを歌う)

 

 みたいな感じになります。こう考えると、単に自社ムーブだからいいとか言えるものではないことがより分かりやすいですよね。

 作詞作曲をして自ら歌を歌う、宇多田ヒカルは素晴らしいですが、外から提供された楽曲の魅力を最大限引き出して表現する嵐も同じく素晴らしいです。

 

 時計もムーブメント(楽曲)外装などの仕上げ(歌を歌うこと)の2つが調和することで、最終的な完成となります。どちらも欠かすことのできない要素です。

 

 このことを理解した上で、腕時計を検討すると、本質を見誤ることなく、より良い選択ができるのはないでしょうか。

 

 なんか、書き始めたら、だらだらと長くなってしまいました。。。そして、本当に初心者向きだったのか笑

 取り止めのない話にお付き合いいただきありがとうございました。少しでも共感してもらえたら嬉しいです!

 

 それでは、豊かな腕時計ライフを!

 

エイチ